マルコフとAnnaと不気味の谷

人工無脳アルゴリズムについて調べている。
趣味プログラムで人工無脳を書いているためだ。

概要を掴むにあたって、「人工無脳は考える」がとても役に立ったが、半世紀以上も前に考えられた「マルコフ連鎖」ほか、古いアルゴリズムが未だに有効であることに驚いた。

それはさておき。
人工無脳の方向性には大きく分けて二つあることが分かった。

一つはもちろん、人工無脳に完璧な会話をさせること。
二つめは、完璧過ぎず、かといって的はずれでもない、微妙な会話をさせることだ。


一つめの方向性の先には、人間に対しての「実用的な」サービスが考えられる。

前出のウェブサイトで例に挙げられているのは道先案内だし、実際の例としては、恐ろしく強まったIKEAのAnna様がいらっしゃる。
Anna様について、詳しくはこちらを参照してもらえればいいが、彼女がデビューしてから

それまで毎年20%ずつ増えていたコールセンターへの電話が、7%上昇に抑えられた。

とのこと。また、具体的な数字は挙げられていないがe-mailが格段に減ったともあるし、何人かは結婚を申し込んだともある。

ただ、現時点において、完璧な会話を実現するのはとても無理なので、状況や役割を限定して応答を十分に作り込み、その上で想定外のアクションに対してはあらかじめ当たり障りのない数種類の応答を用意しておき、そこからランダムに選ぶといった手段が取られている。
上記に挙げた例でも、このような仕組みが利用されている。


二つめの方向性としての、微妙な応答を狙うというのは、これは主に娯楽のためである。
こちらからの問いかけに対して、人工無脳の応答はときに頓珍漢で人を笑わせる。
この点に特化するのが二つめの方向性だ。

具体的にはゲーム「どこでもいっしょ」など。

一つめの方向性でわざわざ「実用性」と書いたのはこのため。

応答生成にはそれほど高い精度は求められないが、あまりに支離滅裂だと前衛的な詩どころか暗号のようになってしまって意味を為さないし、あまりに真っ当な応答だと面白くない。
人の予想する範囲の、少し外ぐらいが笑いどころで、このあたりのさじ加減が肝である。


と、ここまで考えて、不気味の谷のことを思い出した。
Wikipedia不気味の谷現象の項を見てもらえばわかるが、

人間のロボットに対する感情的反応は、ロボットがその外観や動作においてより人間らしく作られるようになるにつれ、より好感的、共感的になっていくが、ある時点で突然強い嫌悪感に変わる。人間の外観や動作と見分けがつかなくなると再びより強い好感に転じ、人間と同じような親近感を覚えるようになる。

というもの。

人工無脳の二つめの方向性において一番おいしい部分が、ロボット/CGから受ける視覚情報の点では不気味の谷に当たる部分であるというのは、ちょっと面白いなと思った。