天才からのメール

ある日会社のメールボックスに素敵なメールが届いた。
以下に引用する。

Subject: Linux

いつもお世話になっております。
hoge部のfugaです

Linuxで、
ユーザ情報(ユーザ名、パスワード、PC名etc)がいるのですが、
設定が分かりません。どうしたらいいか教えてください。

メールでお願いいたします。

よろしくお願いいたします。


素敵なポイントを下記に示す。

1.Subjectが「Linux」のみ。
 ここで既に大物の片鱗を伺わせる。

2.ユーザ情報が「いる」という曖昧な聞き方。最高だ。訳がわからない。
 PC名(hostnameのことか)はユーザ情報に含まれるのだろうか?

3.「設定が分かりません」
 この投げやりっぷりには美しさすら感じる。

4.「どうしたらいいか教えてください」
 そもそもどうして欲しいのかが明確でない所にこの一文。緻密な計算である。

5.「メールでお願いいたします」
 「俺様は忙しいので、回答方法はこちらで決めさせてもらうぜ」というオーラを感じさせるところが玄人の域に達している。

6.hoge部のfuga
 俺は彼が誰かまったく知らない。


この、あたかもピタゴラスイッチピタゴラそうち のように計算されまくったメールであるが、こういったメールを茶化すテンプレはネット上にいくつか転がっている。

それらを確認してみると、fuga氏のメールはテンプレをほぼ完璧に踏襲しているのが分かる。むしろテンプレを見ながら書いたのではないかと疑ってしまうほどだ。

そのテンプレを以下に二つ引用する。
(オリジナルの作成者が不詳であり、検索すると各所がヒットするため、リンクはせずに引用してます。)



エスパーきぼんぬ」「氏ね」「(゚Д゚)ハァ?」等のレスを貰う八ヶ条。

1. ハードウェア、OSのバージョン等には一字一句触れない。
2. 大切な個人情報が漏れるとまずいので、己の行った操作、変更などは秘密。
3. エラーメッセージの類は決して書かない。「エラーが出るんです」で留める。
目の前で生じている現象をそのまま具体的に書くなどもっての外。
事実より俺様の脳内解釈を優先すべし。
4. 独り言文体で必勝。
「…なんだけど、どうすればいいのかなぁ」「何が悪いんだろう?」
5. 「急いでいます」「困っています」等、自分の都合を全面に押し出す。
6. もう試したことを得意げに指摘してくる奴には、厳しく対応。
「それが駄目だったから質問してるんです」「それはもう試してみて駄目でした」
"どう"だめだったのか、本当に実際それを行ったかどうかなんか問題じゃない。
7. ストレートに答えを書かないもったいぶったレスには、逆切れで対応。
「だからどうすればいいんですか?」「分からないなら引っ込んでろやゴルァ」
示されたURL等を参照するなんて態度は、回答者を甘やかすことに他ならないので
絶対に避ける。
8. 情報は小出しに。

教えてクン養成マニュアル

明日の「教えてクン」を目指す、若き戦士達に以下の文章を捧げる。
日々精進し、パソコンヲタクどもの親切を蹂躙してやれ。


1.努力を放棄すること
  いやしくも「教えてクン」たるもの、努力をしてはならない。
 過去ログを読んだり、検索してはいけない。
 「英語は苦手なので、分かりません。」は、高く評価できる。辞書片手にマニュアルやReadMeを読むなど、決してしてはならない。
 他力本願と言われようと、自分で調べたり試行錯誤したりせず、他人の努力の結果を搾取するのが、正しい「教えてクン」である。
 また、「もう何が悪いのかサッパリ分かりません。」と言ってふてくされるのも有効である。「サッパリ」という単語が「やる気の無さ」を効果的に表現している。
 「原因を特定するには、何をすべきでしょうか?」と訊いてしまうと自己の積極性が現れてしまうので、「教えてクン」失格である。


2.情報を開示しないこと
  使用OSや、機器構成などの必須の情報を知らせてはならない。

 マザーボード名やBIOSのバージョンも同様だ。具体的なアプリ名やバージョンも隠蔽すべきだ。「DVD再生ソフト」のように曖昧に表記しておけばよい。
 反対に「前から欲しいと思っていた○○」とか「安売りされていた○○」 等の「どうでもいい情報」は、どんどん書いてやれ。

  トラブルの場合は、状況を正確に記述してはならない。
 「なんだかうまく動きません。」とか「エラーが出ます。」等と具体的なことは何も書かないことが重要である。
 また、自分の試してみた事も具体的に書いてはいけない。考えられる組合せのマトリックスを作成し、状況を整理するなどもってのほかである。最悪の場合、それだけで問題が解決してしまうこともあるのだ。
 「いろいろやってみたけど、動きません。」が理想的だ。


3.答える人間のことを考えないこと
「教えてクン」は、孤高の戦士である。相手のことを考えるようでは教えてクン失格というものだ。
 以下のような行動が、望ましい。
  初心者であることを高らかに宣言し、初心者向けの丁寧で分かりやすい説明を強要する。専門用語の使用を禁じておくとさらに効果的である。簡潔な説明を禁じられたヲタクどもは、同じ内容を説明するのに、何倍もの労力を強いられる。
 自分は努力せず、相手には多大な努力をさせることこそが「教えてクン」の真骨頂である。
  マルチポストも有効である。そのBBSを信用していないことを明確に示せる。「どうせ、お前らじゃ分からんだろう。」という意志表示として高く評価できる。もちろんマルチポストの非礼をあらかじめ詫びてはならない。それでは、単なる「急いでいる人」になってしまう。それは、教えてクンではない。
  質問のタイトルは、「教えてください。」で良い。
 タイトルを読んだだけでは「何に関する質問」か全く分からない。そういう努力は、答える人間にさせれば良いのだ。とにかく、答える人間が答えやすいように気を使って質問してはならない。傲慢で不遜な態度が必須である。
 「聞きたいことがあります。」など、プロの仕事であろう。


最後に、言うまでも無いことだとは思うが、答えてくれた人達にお礼の言葉を返すなど言語道断である。
せっかく「教えてクン」を貫いてきたのに、最後にお礼を言っているようでは、臥竜点睛を欠いていると言わざるを得ない。
質問だけしておいて、後はシカトが基本である。
上級テクニックとして、「そんなことはもう試しました。」とか、「そこまで初心者じゃありません。」などと言って、回答者の神経を逆なでしておけば完璧である。


以上のことを踏まえて質問すれば、君も立派な「教えてクン」である。
ビバ!教えてクン! 教えてクンに栄光あれ!!


hoge部のfuga君に対しては、俺の持てる限りの想像力を動員して返信をした。
そのメールに対してもちろん返信はない。
最後までテンプレ通りだ。